浜松という土地は、観光資源や産業が一定程度ありながらも、全国的に見て、地域ブランドとしての印象があまり強くありません。
これは個人の発信力だけの問題ではなく、地域としての物語性や、そこでしか得られない体験価値が十分に整理されていないからだと、私は感じています。
地域のブランドというのは、自然や信仰、文化、暮らしといった「土台」とのつながりの中で育つものです。
たとえば、日本三名山である富士山、白山、立山は、景観が美しいだけではなく、古くから人々の祈りや修行の場であり、今もそうした体験を受け継ぐ仕組みが存在しています。
それが観光だけでなく、文化や教育、地域の誇りとしても力を持っている理由だと思います。
浜松にも、同じように意味を持つ山々があります。
秋葉山、春埜山、光明山、常光山をはじめ、岩岳山、戸綿山、天王山といった、いわゆる遠州七天狗と呼ばれる山々です。
これらは、かつて修験道の拠点であり、山伏や行者が実際に修行していた歴史のある場所であり、
多くの行者や参拝者が訪れ、山の麓には表参道の茶店や宿場町がにぎわいを見せていました。
しかし現在では、参拝者も少なくなり、山道は荒れ、その歴史や意味が忘れられつつあります。
私は、この地域の山々を、ただの観光地やハイキングコースとしてではなく、身体で自然と対話できる場として見直す必要があると考えています。
その実践の一つとして、私は自身が開発した一本歯の下駄、ippon blade®︎を用いて、これらの周辺地域を実際に歩いたり走ったりしています。
一本の軸で立ち、歩くこの道具は、自然との関係性を繊細に感じ取る身体感覚を育ててくれます。
足元から山に向き合うための、ひとつの入り口になっていると実感しています。
現在、「天狗の里」という名称が使われたり、天狗をモチーフにした商品やイベントが行われたりしていますが、実際にはその背景にある文化や信仰、体験の深さまではあまり伝わっていません。
名前やキャラクターだけが先行して、中身が伴っていないという印象を受けることもあります。
また、天狗について詳しく解説できる人は世の中にたくさんいます。
歴史書や民俗資料を調べて話すことはできます。
でも、山に入って実際に歩き、感じ、自分の内側で消化した体験を通して語れる人、つまり天狗の声として語ることのできる体現者は、ほとんどいないのが現状です。
私は、ippon blade®︎を履いて地域を歩き、身体の感覚に問いかけながら土地と向き合ってきました。
そのプロセスの中で気づいたのは、知識ではなく、身体で感じたことを自分の言葉で語ることの重みです。
地域ブランドとは、そうした体験の積み重ねによってこそ生まれるものだと思っています。
「天狗の里」という言葉を、本当の意味で活かすためには、ただの観光資源としてではなく、体験を通じてしか得られない価値を設計していく必要があります。
私が今、実際に取り組んでいることは、大きく分けて三つあります。
一つ目は、遠州七天狗の山々を中心に、修験道的な自然体験や、歩く禅・走る禅の為のトレッキング登拝ルートなどを整備し、深い身体体験ができる場をつくることです。
このとき、ippon blade®︎は単なる道具ではなく、身体と山との関係を再構築するための媒介になります。
観光や運動ではなく、自分の重心や呼吸、リズムに耳を傾けながら山を登ることで、自然との一体感を実感できる構成にしていきたいと考えています。
二つ目は、この土地に根ざしながら、山や自然との関わりを日常として生きている体現者を育てることです。
単なるガイドや解説者ではなく、自らの暮らしと実践を通して語ることができる人。
私自身もippon blade®︎での実践を通して、その一人として責任を持ちながら、こうした人が地域に育っていくことを大事にしたいと思っています。
三つ目は、「天狗」という存在の捉え直しです。
妖怪やマスコットとしてではなく、人と自然の間をつなぐ象徴として、あるいは身体を通して土地とつながるための手がかりとして、天狗を現代的に位置づけていくこと。
ippon blade®︎という実践の軸があることで、この象徴がより具体的に、体験として理解されやすくなっていくと考えています。
それを教育や福祉、アート、観光などの分野に応用していくことで、地域の文脈そのものが深まり、横のつながりも生まれてくるはずです。
これらの取り組みが形になれば、浜松は「天狗の名前を使った地域」から、「天狗のように生き、歩き、伝えている人がいる土地」へと変わっていくと思います。
そこにippon blade®︎という実践軸があることで、外から来た人にも、その体験の入り口が開かれるのではないかと考えています。
観光的な価値だけでなく、地域の誇りや教育的資源としても広がりが出てきますし、移住・定住促進にもつながっていくはずです。
行政としても、単発の観光施策ではなく、文化体験や人材育成の基盤づくりという視点で、中長期的に支援していただけたらありがたいです。
この地域には、まだ十分に活かされていない価値が、確かに残っています。
それを実際に歩き、体験し、自らの生き方として体現していくこと。
そして、ippon blade®︎のような「身体を通して山と向き合うツール」を活かすことで、それがより多くの人の実感となっていく。
私にはわかっています。
天狗が何者であり、何のためにここに来たのかを。
けれど、それを語るつもりはありません。
語るよりも、ただ体現し、ただ実現する。
それだけです。
ippon blade®︎代表 小平天
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