自分の軸へ還る|ippon blade®︎と、動くことの自由

小平 天(TEN)|ippon blade®︎創始者・開発者

一本の歯で立ち、歩き、走る。

ippon blade®︎の姿を見て、まず「難しそう」「なぜ、わざわざ不安定なものを履くのか」と感じる人もいるでしょう。

私が一本歯下駄に見いだしたのは、不安定さに耐えるための訓練ではありません。自分の重さを感じ、余計な力みに気づき、変化に応じて身体を動かしていく実践です。

動かないように踏ん張ることと、動きながらバランスを保つこと。その違いは、外から見ているだけでは分かりません。

足元に身体が乗る感覚。力みがほどけて、一歩が自然につながる感覚。一本の歯を通して確かめてきたことは、立ち方や歩き方だけでなく、自分自身との関わり方にもつながっていきました。

山道には、同じ一歩がない

私がippon bladeで林道を走るのが好きなのは、一歩ごとに地面が変わるからです。

石、砂利、木の根。登りから下りへ、乾いた路面から濡れた路面へ。足を運ぶ場所も、進む方向も、必要な速さも変わります。

そこでは、決めたフォームを守り続けることより、目の前の地面に応じることが先にあります。重心を運び、その移動に合わせて骨盤や背骨、手足が連動する。小さくかわすこともあれば、重心を低くして進むこともあります。

身体の一部分だけをどう動かすか考え続けていては、変化に間に合いません。足元を感じながら、進む先も見ている。自分の内側と外側を、同時に感じている。そのとき、動くことがとても面白くなります。

好き勝手に動くのではなく、地面や重力との関係が分かるほど、動きの選択肢が広がっていく。私は山の中で、その自由を何度も味わってきました。

これは、長い実践の中で育ってきた感覚です。始まりに必要なのは山道でも長い距離でもなく、まず立ち、歩く中で、自分の身体の変化に気づくことです。

軸は、動きを止めるためにあるのではない

「軸がある」と聞くと、まっすぐで、びくともしない身体を思い浮かべるかもしれません。

私が実践で大切にしている軸は、身体の中に固い棒をつくることではありません。

頭、胸郭、骨盤。それぞれに重さがあり、位置関係が変われば、足元への重さのかかり方も変わります。身体を傾けるときも、しゃがむときも、歩き出すときも、その関係は動き続けています。

大切にしているのは、一つの姿勢を保つことよりも、重心と足元の関係を感じ取り、全身がつながって動けることです。

例えば、胸を張って腰を反らせた姿勢も、外からは堂々として見えます。しかし、その見栄えと、そこから無理なく次の一歩へ移れるかは別の話です。

立っている形だけを見ず、動き始めたときに、身体のどこがついてこないのかを感じる。頭や胸郭だけが残っていないか、腰や足だけで動こうとしていないか。そうしたことを、実際の動きの中で確かめます。

全身のつながりを保ちながら、次の動きへ移っていく。ippon bladeでは、その中で自分の軸を確かめます。

ニュートラルは、無難な中間ではない

力を発揮することと、緩むこと。
伸びることと、縮むこと。
一点に集中することと、周囲を広く感じること。

私が目指すニュートラルには、その両方があります。

いつでも力を半分に抑えたり、動きを小さくまとめたりすることではありません。必要な場面では強く動ける。静まる場面では深く静まれる。そして、どちらか一方に閉じ込められず、自然に戻れる。

二つの働きを単に交互に切り替えるだけでもありません。外へ伸びていく動きにも、内へまとまる働きがある。足元に集中していても、周囲の変化を感じている。互いの働きがあるからこそ、もう一方を十分に生かせます。

この関係を、私は「押し引き」と呼んでいます。そのつり合いは固定されず、状況に合わせて変わり続けます。

揺れを止めることだけを求めれば、動きは固まります。揺れに流されるだけなら、自分の向かいたい方へ進めません。揺らぎながら応じ、自然に自分の軸へ還る。その幅を持つ身体が、私の考える自然体です。

自分の軸へ還ることは、周囲を遮断して、自分だけの世界に閉じこもることでもありません。自分の感覚が確かになるほど、地面や風、周りの人の存在にも気づける。そのような関わり方を、身体を通して育てたいと思っています。

身体で得た感覚を、一足の形にする

この考えの出発点には、西表島で裸足になり、自然の中を走っていた日々があります。自分の足を傷つけず、小さな生き物や新芽も踏まずに進む。その一歩の中で、自分を大切にすることと、自然を大切にすることが重なっていました。

その後に出会った一本歯下駄に、私は、その感覚を動きとして伝えていく可能性を見いだしました。山を歩き、100kmのウルトラマラソンにも挑みながら、身体の使い方と、履物の形を確かめてきました。

そこで感じたことを、木工職人のモクエンと一足の形にしていきました。台の形、歯の位置や高さ、紐の通し方。試作を履いて動き、わずかな違いを伝え、またつくり直す。身体の実践と職人の手仕事を重ねて生まれたのが、ippon bladeです。

さらにAyariのヨガや身体調整の実践と指導が加わり、走ることだけに限らず、日々の暮らしの中でも深められる活動へと広がってきました。

長い距離への挑戦も、静かに立つ時間も、自分の身体と向き合う実践です。どちらにも、その場でしか気づけないことがあります。

感覚を、言葉と図で確かめる

身体で感じることと、仕組みを理解すること。その両方があると、実践はさらに深まります。

足の構造と全身のつながり。重心と接地の関係。呼吸や力み、一歩が生まれるまでの身体の連動。そして、そうした実践とippon bladeの設計に込めた考え。

これらを順序立てて学べるよう、公式テキスト『ippon blade 身体理論と実践哲学』に、図解とともにまとめています。

すでに履いている方には、いつもの感覚を言葉で確かめるために。まだ履いたことのない方には、この形にどのような経験と考えが込められているのかを知るために。

読んで理解したことを身体で確かめ、身体で気づいたことから、また読み直す。その行き来の中で、自分の実践を育ててください。

公式テキストの内容・購入案内を見る|note

自分の軸へ還る。
そこから、動くことはもっと自由になります。

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